■ 概要
奥多摩は低い。だが、決して易しくはない。
標高だけを見て判断すると、その本質を見誤る。
本仁田山から川苔山へ。
この縦走路は、静かに、確実に登山者を削るルートだった。
距離17.3km、累積標高差約1,700m。
行動時間は8時間53分。
数字だけ見れば日帰り。しかし内容は明らかに一段上だ。
前半で削られ、後半で耐える。そんな構造になっている。
■ コースタイム
| 時刻 | ポイント |
|---|---|
| 08:31 | 奥多摩駅 |
| 09:05 | 安寺沢 |
| 09:52 | 大休場 |
| 10:55 | 本仁田山 |
| 11:42 | 大ダワ |
| 12:26 | 鋸尾根分岐周辺 |
| 13:34 | 川苔山 |
| 14:33 | エビ小屋山 |
| 15:50 | 赤杭山 |
| 16:24 | ズマド山 |
| 17:24 | 川井駅 |
■ 序盤|すでに始まっている消耗
気温は27度。
春山としては高く、歩き出した瞬間から汗が流れる。
まだ核心には入っていない。
それでも体力は確実に削られていく。
奥多摩駅周辺は登山者で賑わっていたが、その空気とは対照的に、この先は静かで厳しい山行になる。

消耗は、気づかないうちに積み上がる。
この時点での判断やペース配分が、後半に大きく影響する。
■ 大休場尾根|終わらない急登
大休場に到達すると、空気が変わる。
ここからが本当のスタートだ。
傾斜が一段上がる。
呼吸が荒くなる。
脚が止まりそうになる。
景色は変わらず、樹林帯が続く。
進んでいる実感が薄く、精神的にも削られる。
これが奥多摩三大急登、大休場尾根。

逃げ場はない。
本仁田山(標高1,224m)に到着したとき、達成感はある。
しかしそれ以上に、「まだ終わっていない」という現実が重い。
山頂は狭く、眺望も控えめ。
ここはゴールではなく、あくまで通過点だ。
■ 本仁田山|静かな山に潜む現実
本仁田山は地味な山だ。
だが、その印象とは裏腹に事故は発生している。

ルートミスから斜面に迷い込み滑落する事故や、急斜面での転落事故が報告されている。
そしてこれは単発ではない。
毎年のように事故が起きている。
難易度が極端に高いわけではない。
それでも事故が起きる理由は明確だ。
油断できる難易度であること。
それがこの山の危うさを生んでいる。
■ 鋸尾根|静かにリスクが積み上がる
本仁田山から先、鋸尾根に入ると山の性格は一変する。

細いトラバース。
右側は切れ落ちている。
足場は安定しない。

難しいわけではない。
だが、安全ではない。
途中、崩落しかけた橋に遭遇する。
渡ることはできる距離だったが、引き返す判断を取った。

岩壁沿いを通過しながら進む。
一歩一歩、足場を確認する。
この区間には派手さはない。
ただ静かに、リスクが積み上がっていく。
■ 川苔山|人気の裏にある危険性
川苔山(標高1,363m)は奥多摩でも人気の高い山だ。
山頂は広く、多くの登山者で賑わう。


だが、この山も例外ではない。
転倒からの滑落や沢への転落など、重大事故が実際に発生している。
そしてこれも、繰り返されている。
人気の山であることは、安全であることを意味しない。
ルートによって難易度が大きく変わるため、状況を見誤ると危険に直結する。
■ 山頂|許された一時の緩み
山頂は穏やかだ。
笑い声が聞こえる。
軽装の登山者も多い。
だが、それは一部の風景でしかない。
ここに来るまでに、確実に削られている。
脚も、集中力も。
山は山頂で評価するものではない。
■ 後半|終わらない下山
川井駅へ向かう。
ここからがもう一つの試練。
小ピークをいくつも越える。
細かいアップダウンが続く。

人はほとんどいない。
静かな尾根。
前半で消耗した脚に、この地味な起伏が確実に効いてくる。
下山は楽ではない。
ペースは上がらず、耐える時間になる。
■ 終盤|生還という実感
やがて里の気配が近づく。
道が広がる。

人の気配を感じたとき、ようやく終わりが見える。

川井駅に到着したときに残ったのは、達成感ではない。

無事に終えたという事実。
それだけで十分だった。
■ 総評|奥多摩は甘くない
本仁田山~川苔山縦走は、低山のイメージを覆すルートだった。
大休場尾根の急登。
鋸尾根のリスク。
後半の持久戦。
そして、毎年のように事故が発生している現実。
奥多摩は低い。
だが、安全ではない。
この山域は静かに問いかけてくる。
それでも進むのか、と。
■ 次に向かうなら
百尋ノ滝ルート。
同じ川苔山でも、まったく異なる性格を持つ。
奥多摩は一度では終わらない。選ぶルートによって、その難易度は大きく変わる。





