登山を続けていると、ギアに対する価値観というものが少しずつ固まってくる。
軽さを求める人もいる。
最新素材に惹かれる人もいる。
あるいは、海外ブランドの持つ独特の存在感に魅了される人もいるだろう。
だが、私は昔から「定番」と呼ばれるギアを好む。
長年使われ、多くの登山者に選ばれ続けてきた道具。
それは決して派手ではない。
むしろ、最新ギアと比較すると地味ですらある。
しかし、その地味さの裏には、長い年月をかけて積み重ねられた信頼がある。
私は登山において、安定感は非常に重要なファクターだと思っている。
新素材による軽量化や、尖った性能も魅力ではある。
だが、山では「普通に機能する」ということが何よりも強い。
そういう意味で、私にとっての定番が、キャラバンの登山靴――
キャラバン C1_02S である。

一年半、週一で履き続けた靴
私はこの靴を一年半履き続けてきた。
しかも、ただ履いていたわけではない。
週一ペースで山へ通い、丹沢を中心に様々な路面を歩いてきた。
岩場。
木段。
ザレ。
泥濘。
濡れた木の根。
その中で以前から感じていたことがある。
それは、粘土質の路面でやや滑りやすい傾向があることだ。
もちろん、これは今に始まった話ではない。
新品のころから多少その傾向は感じていた。
だが、最近になって、それがより顕著に現れるようになってきた。
下山時。
ぬかるんだ斜面に足を置いた瞬間、以前より明らかにグリップが甘い。
「あれ?」と思う場面が増えてきたのである。
そして先日、改めてソールを確認した。
かなり減っていた。

いや、正確に言えば、もっと前から気づいてはいた。
ただ、「まだ一年半しか使っていない」という感覚がどこかにあった。
まだいける。
まだ使える。
そう思い込んでいたのかもしれない。
だが、ソールは正直だった。
ブロックパターンは丸くなり、エッジは失われ、
確実に寿命へ向かっていたのである。
次の登山靴問題
そうなると、考えなければならない。
次の登山靴をどうするか。
山へ行けば、スポルティバやスカルパを履いている人をよく見かける。
洗練されたデザイン。
高い剛性。
そして、いかにも“山をやっている感”のある存在感。
正直に言えば、私も興味はあった。
一度は履いてみたい。
そう思ったことは何度もある。
特に、岩場や高度感のあるルートへ行くことを考えると、よりハイスペックな靴への憧れは確かにある。
しかし、そこで現実に立ち返る。
果たして、自分の普段の山行にそこまでのスペックが必要なのか。
もちろん、西黒尾根のようなハードルートや、アルプスの長時間行動では、より上位の靴が活きる場面もあるだろう。
だが、私が今もっとも多く歩いているのは、週一の普段の山行である。
丹沢。
高尾。
奥多摩。
そこで求めているのは、「戦闘力」ではない。
安心してラフに使えること。
雑に扱っても応えてくれること。
そして、自分の足に馴染んでいること。
それらを総合して考えたとき、結局ひとつの答えに辿り着いた。
今回、私が選んだ登山靴。
それは――
再び、キャラバン C1_02S だった。


結局、安心感には勝てない
もちろん、色は変えた。
同じモデルでも色が違うだけで、意外と気分は変わる。
だが、足を入れた瞬間に感じる感覚は、やはりいつものC1_02Sだった。
「ああ、これだな」
そう思った。
結局のところ、この靴の安心感に勝るものがなかったのである。
新しい靴を試す楽しさもある。
未知のギアに挑戦する面白さもある。
だが、山では「信頼できる」という感覚が非常に大きい。
特に下山時。
疲労が溜まり、集中力が落ちた場面で、
足元に対する不安が少ないというのは、それだけで大きなアドバンテージになる。
私は登山において、“尖った性能”よりも“総合的な安心感”を重視しているのだと思う。
ソール張替えという選択肢
この靴はソールの張替えにも対応している。
それ自体は非常に良いことだと思う。
長く使える設計というのは、道具として誠実だ。
だが、実際に調べてみると、張替え費用は決して安くない。
むしろ、価格だけ見れば新品を買えてしまうレベルに近い。
もちろん、張替えには「履き慣れたアッパーをそのまま使える」というメリットがある。
新品特有の馴染ませ期間も不要だ。
しかし今回は、私は新品購入を選んだ。
理由はシンプルである。
二足体制にできるからだ。
新品をメイン運用し、旧C1_02Sはサブとして残す。
低山や短時間山行、あるいは雨天用として使うこともできる。
これは結果的に、かなり合理的な運用だと思っている。
定番とは、帰ってくる場所なのかもしれない
登山を続けていると、つい新しいものへ目が向く。
より軽く。
より硬く。
より高性能に。
だが、経験を重ねるほど、最終的には「自分に合うもの」に戻ってくる気がする。
そして、それが長年愛されている定番ギアであることは少なくない。
派手ではない。
だが、確実に応えてくれる。
キャラバン C1_02Sは、まさにそんな靴だった。
最新鋭ではない。
しかし、山を歩くという行為を、静かに支えてくれる。
私は今回、同じ靴を買い増した。
それは冒険ではないのかもしれない。
だが、登山においては、こういう堅実な選択こそが、長く山を続けるために必要なのだと思っている。






