丹沢大山という山は、入口の選び方によってまったく別の顔を見せる。 ケーブルカー、石段、観光客。多くの人が思い浮かべる大山のイメージは、おそらくその延長線上にあるだろう。
しかし今回は、その流れから意図的に外れた。選んだのは諸戸尾根。破線で示される、地味で静かなルートだ。派手さも展望もない。ただ、登り続ける時間だけがある。
山行データ
- 行動時間:3時間47分(行動 3:18/休憩 0:29)
- 距離:7.7km
- 累積標高差:登り 642m/下り 1,107m
- 天候:曇りのち晴れ(風強し)
ヤビツ峠 ― 人の多さと静けさの分岐
朝のヤビツ峠行きバスは、いつもより混雑していた。駐車場にも車が多く、今日も大山は賑わうのだろうと想像できる。

だが、進行方向を変えた瞬間、その予想は裏切られる。諸戸尾根へ向かう登山者は、結局のところ私一人だった。人の多さはルートの人気を示すが、静けさは選択の結果でしか得られない。
諸戸尾根 ― 破線ルートの現実

諸戸尾根は破線ルートに分類されているが、危険な鎖場や切れ落ちた痩せ尾根があるわけではない。技術的な難易度は低く、純粋に登りが続く。
問題は別のところにある。
道標はほぼ存在せず、視界は樹林帯に閉ざされる。景色は変わらず、足元と高度だけが少しずつ進んでいく。誰とも会わない時間が長く続き、自然と内側に意識が向かう。

登山の価値を「刺激」や「達成感」に求める人にとっては、退屈なルートかもしれない。だが、単調さの中で自分のペースや思考と向き合う時間は、確かに存在していた。

途中、岩が点在する場面もあるが、慎重に歩けば問題ないレベルだ。1月にもかかわらず、ミツマタのつぼみが膨らみ始めているのが印象的だった。季節は確実に先へ進んでいる。

大山山頂 ― 世界線の切り替わり
10時過ぎ、大山山頂に到着。一般ルートに合流した瞬間、空気が一変する。人の声、足音、写真を撮る動き。ほんの数分前までの静寂が、まるで別の世界の出来事のように感じられた。

同じ山、同じ標高でも、登ってきたルートが違うだけで体験はここまで変わる。風が強く、長居はしなかった。今日の主役は山頂ではなく、そこへ至る過程だったからだ。
下山 ― 整備された道へ戻る
阿夫利神社下社を経由し、ケーブル駅方面へ下山。道は一気に整備され、緊張感は薄れていく。山は常に危険と隣り合わせだが、同時に人の手によって安全にもなる。その対比を強く感じた。

コースタイム
| 時刻 | ポイント |
|---|---|
| 08:06 | ヤビツ峠 発 |
| 08:33 | 青山荘 |
| 08:44 | 大山への取り付き |
| 10:07 | 大山 山頂 |
| 11:44 | 阿夫利神社下社 |
| 11:53 | ゴール(大山ケーブル駅方面) |
山行を終えて
下山後、塔ノ岳で山火事が発生しているというニュースを知った。堀山の家が全焼したとの情報もあり、詳細は錯綜している段階ではあるが、丹沢を歩く者として胸が痛む出来事だった。
諸戸尾根は派手さのないルートだ。だが、静かに山と向き合いたい登山者にとっては、強く印象に残る選択肢になる。
これで、バリエーションを除けば大山への主要ルートはすべて歩いたことになる。それでも丹沢は、まだ簡単には語り尽くせない。





