冬晴れの空が澄み渡る朝。
私は神奈川県の大野山へ向かった。標高723m。丹沢の西側にぽつんと位置する、穏やかで開放的な里山だ。山頂はかつて牧場として使われていた経緯があり、今もその雰囲気を残した広大な草地が広がる。視界を遮るものが少なく、どこまでも空に近い。登山者の間では「気持ちのいい展望台」として知られ、日本の里山百選にも選ばれている。
険しい山々が連なる丹沢の中にあって、大野山は異質だ。
鎖場も岩場もなく、斜面はどこか丸みを帯び、山全体が柔らかな表情をしている。
普段、私は訓練に近い登山を選ぶ。高度感があり、緊張を強いられる場面がある山。冷たい稜線で体を削るように歩く山。いわば修験のような山行に身を置き続けてきた。
「山と向き合う」というより、「山に身を預ける」ことが自分にとっての登山だと思ってきた。
だが――たまには、こうした穏やかな山に身をゆだねるのも悪くない。
大野山はまさに、そんな心持ちに応えてくれる山だった。
山行データ
- 山域:神奈川県・大野山(標高723m)
- 日付:2024年12月30日(月)
- 天候:晴
- 総距離:13.6km
- 累積登り:694m
- 累積下り:751m
- 行動時間:4時間20分(休憩除く)
- 休憩:23分
- 合計:4時間43分
- 歩行ペース:0.7〜0.8(標準より速い)
コースタイム
| 時刻 | 行程 |
|---|---|
| 09:41 | スタート |
| 09:42〜09:46 | 谷峨駅 |
| 10:23〜10:24 | 都夫良野頼朝桜 |
| 10:39〜10:45 | 山北つぶらの公園入口 |
| 10:50〜10:53 | さくら山 |
| 11:20〜11:25 | つぶらの公園入口(復帰) |
| 12:05〜12:10 | 十字路 |
| 12:25〜12:31 | 大野山山頂 |
| 13:27 | 大野山駐車場・トイレ |
| 13:44〜13:47 | 共和小学校そばのトイレ |
| 14:04 | 大野山登山口 |
| 14:21 | 大野山入口 |
| 14:25 | 山北駅(臨時駐車場・駅) |
のびやかな山頂で
山頂へ向かう稜線では、空が一気に広くなる。
冬特有の透明感のある空気が富士山の輪郭をくっきり描き出し、丹沢の峰々は青く重なり、足柄の町並みがその下で静かに光っていた。




山頂は広大で、牧草地のように緩やかだ。
登山者たちが好きな場所に腰を下ろし、それぞれの時間を過ごしている。どこにも圧迫感がなく、空気が自由に流れていた。



険しい山では、風景を「味わう」というより、自分の立ち位置を確認するために景色を見るときがある。しかし大野山は違う。ここでは景色が自然と身体に入り込み、じわじわと心を温めてくれる。
「癒しの山」と呼ばれる理由がよくわかる瞬間だ。
市街地へ下りながら思ったこと
大野山から山北駅へのルートは、舗装路と住宅地歩きが多い。
山歩きという観点では少し物足りなさを感じるかもしれないが、冬の午後の柔らかな光の中を歩く町の雰囲気は、これはこれで悪くなかった。

むしろ、山の非日常から日常へ戻る“橋渡し”のような時間だった。

修験の山と癒しの山
私は普段、山に鍛錬や緊張を求めるほうだ。
冷たい風を受け、岩をつかみ、ただ一歩一歩の積み重ねの中で心を整える。
厳しい山行の中でこそ研ぎ澄まされるものがあると信じてきた。
しかし、この日の大野山で思った。
山は戦う場所だけではない。癒される場所でもあるのだ。
どちらか一方ではなく、その行き来こそが登山者を成熟させる。
峻厳な山が魂を磨くなら、柔らかな山は心を癒し整えてくれる。
大野山は、まるで「帰るべき場所」のような山だった。
静かで、明るくて、優しい。
そして、また険しい山へ向かう力を静かに与えてくれる。
まとめ
大野山は、険しさとは無縁の、のびやかで穏やかな山である。
だが、その癒しの力は決して軽くはない。
修験のような山行の合間に、ふっと心を緩ませる場所として、これほど適した山はそう多くないだろう。
年末の締めに歩いたこの山は、私にとって特別な位置づけになった。
また訪れたい。
そしてまた、険しい山々へ向かう日も来るだろう。
その循環こそが、登山の豊かさなのだと思う。





