関東地方の梅雨が明け、本格的な夏山シーズンが始まった。
この日の神奈川県には熱中症警戒アラートが発表され、平地の最高気温は37℃予報。照りつける日差しは朝から強く、低山とはいえ決して楽観できる条件ではなかった。
今回歩くのは、丹沢大山。

10kgのザックを背負い、男坂から山頂を目指し、見晴台を経由して下山する周回ルートである。
何度も歩いてきた山だった。
だからこそ、どこかに油断があったのかもしれない。
山行概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 山域 | 丹沢 |
| 山名 | 大山(1,252m) |
| 日程 | 2026年7月20日(月・祝) |
| 天候 | 晴れ |
| 距離 | 8.0km |
| 累積標高 | 登り962m / 下り958m |
| 行動時間 | 5時間50分(休憩1時間10分含む) |
| 装備 | 10kg歩荷 |
コースタイム
| 時刻 | 行程 |
| 09:52 | 大山ケーブルバス停 出発 |
| 09:56 | 西の茶屋 |
| 10:02 | 大山ケーブル駅 |
| 11:06 | 阿夫利神社下社 |
| 12:08 | 16丁目 |
| 12:28 | 富士見台 |
| 12:33 | 天狗沢展望台 |
| 12:50 | 25丁目 |
| 13:08 | 大山山頂 |
| 13:43 | 山頂出発 |
| 13:53 | 大山ノ肩 |
| 13:58 | 不動尻分岐 |
| 14:37 | 見晴台 |
| 14:53 | 大山二重の滝 |
| 14:58 | 阿夫利神社下社 |
| 15:32 | 大山ケーブル駅 |
| 15:37 | 西の茶屋 |
| 15:41 | 大山ケーブルバス停 到着 |
男坂から始まる試練
9時52分、大山ケーブルバス停を出発する。
参道を抜け、八意思兼神社へ立ち寄る。静かな境内には朝の空気が残っていたが、男坂へ入るとすぐに暑さが身体を包み込んだ。
石段を登るたびに汗が流れ落ちる。
まだ歩き始めて間もない。それでも呼吸は乱れ、脚は思うように前へ出ない。
木陰はあるものの、風はほとんど吹かない。
湿った空気が身体にまとわりつき、体力だけが奪われていく。

阿夫利神社下社まではまだ距離がある。
この時点で、一度撤退が頭をよぎった。
普段なら考えることもない判断だった。
しかし、この日の暑さはそれほどまでに厳しかった。
阿夫利神社下社へ
休憩を繰り返しながら歩き続ける。
水分を補給し、呼吸を整え、また歩き出す。
その繰り返しだった。
11時過ぎ、ようやく阿夫利神社下社へ到着する。
境内には参拝客の姿がある一方で、登山者は少ない。
三連休最終日とは思えない静けさだった。

ベンチに腰を下ろし、しばらく身体を休める。
体調は万全ではない。
それでも歩けないほどではなかった。
ゆっくりでも前へ進むことにした。

山頂への道
下社から先も暑さは変わらない。
蝉の鳴き声だけが樹林帯に響く。
富士見台を過ぎ、天狗沢展望台へ向かう途中では一頭の鹿が登山道脇に立っていた。

こちらを見つめるでもなく、静かに森の中へ消えていく。
そんな光景だけが、この日の暑さを忘れさせてくれた。
山頂へ近づくにつれ、少しずつ足取りは重くなる。
それでも歩みを止めることなく進み続けた。
大山山頂
13時8分、山頂へ到着。

若干ガスがかかり、遠くの景色は霞んでいた。

いつも休憩する場所へ向かうと、工事のため立入禁止になっている。

少し場所を移し、昼食をとる。
標高1,252m。
それでも涼しさは感じられない。
吹き抜ける風も弱く、休憩していても汗は止まらなかった。
35分ほど身体を休め、下山を開始する。
本当に苦しかったのは下山だった
見晴台までは順調だった。

しかし、その先で身体の様子が変わる。
足が重い。
頭がぼんやりする。
集中力が続かない。
疲労だけでは説明できない感覚だった。
阿夫利神社下社まで戻り、さらに少し下った場所にあるベンチへ腰を下ろす。
風が心地よい。

ようやく身体が少しだけ楽になった。
それでも十分ではない。
残る距離はわずかだった。
最後の数百メートル
大山ケーブル駅を通過する。
西の茶屋を過ぎればゴールは目前。
しかし、その数百メートルが異様に長く感じられた。
視界がぼやける。
意識が遠のく。
足だけを前へ運び続ける。
15時41分、大山ケーブルバス停へ到着。
振り返れば、この区間が一番危険だった。

冷房の効いたバスへ乗り込むと、少しずつ身体が落ち着いていく。
暑さから解放されるにつれ、意識もはっきりしてきた。
熱中症だったと断言はできない。
しかし、あのまま歩き続けていたらどうなっていたかは分からない。
山行を終えて
大山は初心者向けの山として紹介されることが多い。
実際、標高や距離だけを見れば決して難しい山ではない。
しかし、山の難しさは数字だけでは決まらない。
真夏の低山は、高山とは違う危険を持っている。
高温、多湿、風の少なさ。
それらが重なることで、普段歩けるコースでも一気に難易度が上がる。
今回の山行では、山頂に立った達成感よりも、安全に下山できた安堵感の方が大きかった。
登山は山頂に立つことが目的ではない。
無事に帰ることが目的である。
その当たり前のことを、灼熱の丹沢大山で改めて教えられた一日だった。





