低山縦走という言葉から想像される「気軽さ」は、このルートには当てはまらない。矢倉岳から金時山へ至る縦走は、距離26.4km、累積標高差は登り1,717m。数字が示す通り、しっかりと体力を要求される山行だった。
山北駅を起点に、歴史的な城址や観光地を経由し、静かな里山から箱根外輪山へと歩みを進める。最終的に待ち構えるのは、金時山の急登と開放的な山頂風景。神奈川と静岡、二つの県をまたぐこの縦走は、淡々と歩き続ける忍耐力が試されるルートでもある。
山行データ
- 行動時間:9時間50分(行動 8:52/休憩 0:58)
- 距離:26.4km
- 累積標高差:登り 1,717m/下り 1,493m
コースタイム
| 時刻 | ポイント | 区間行動時間 |
|---|---|---|
| 06:33 | 山北駅(スタート) | — |
| 06:49 | 河村城本城郭跡 | 15分 |
| 07:04 | 河村城山 | 15分 |
| 07:43 | 洒水の滝 | 39分 |
| 08:58 | 21世紀の森テレビ塔 | 1時間08分 |
| 10:46 | 矢倉岳 | 1時間47分 |
| 12:11 | 足柄山聖天堂前トイレ | 1時間25分 |
| 12:39 | 足柄峠 | 28分 |
| 13:38 | 金時山 | 59分 |
| 16:27 | 足柄駅(ゴール) | 2時間49分 |
矢倉岳について
矢倉岳(標高870m)は足柄平野の西端に位置する独立峰で、山頂が広く展望に優れるのが特徴だ。箱根外輪山や富士山を望むことができ、アクセスも比較的良いため、単体では初心者向けの山として紹介されることが多い。
今回のルートでは、洒水の滝や21世紀の森を経由して登頂する。道は概ね整備されており、危険箇所は少ない。ただし距離が長く、アップダウンが連続するため、矢倉岳に到達する時点ですでにそれなりの疲労が蓄積している。

山頂は広く、多くの登山者で賑わっていた。静かな里山歩きから一転し、人の多さに少し驚かされる。富士山は大きく、これから向かう金時山の姿もはっきりと確認できる。その距離感は、後半の厳しさを予感させるには十分だった。

足柄峠を越えて静岡県へ
矢倉岳から一度下り、足柄万葉公園、足柄山聖天堂前を経由して足柄峠へ向かう。この区間は舗装路や林道も混じり、山歩きとしてはやや単調に感じるかもしれない。

一方で、足柄山聖天堂前にはトイレと自動販売機があり、長距離縦走では非常にありがたい存在だ。精神的にもリセットできる貴重なポイントと言える。

足柄峠を越えると静岡県側へ入る。地味な区間だが、確実に体力を削られていく。低山縦走の怖さは、こうした「楽そうに見える区間」に潜んでいる。
金時山について
金時山(標高1,212m)は箱根外輪山を代表する山で、金太郎伝説でも知られている。登山道がよく整備されており、多くの登山者が訪れることから「初心者向けの山」と紹介されることが多い。
しかし、縦走の終盤にこの山を組み込むと印象は一変する。山頂直下から始まる急登は明確で、疲労が溜まった脚にははっきりと堪える。山容を遠くから眺めた時点で、その厳しさはある程度想像できたが、実際に登ると予想通りだった。

それでも、山頂に立った瞬間に広がる景色は素晴らしい。富士山、箱根の山々、足柄平野。低山という前提を忘れさせるほどの開放感がある。期待していなかった分、余計に心に残る山頂だった。

下山
下山路では一部ルートが不明瞭な箇所もあり、長時間行動の終盤ということもあって集中力が求められた。危険箇所は特にないが、「安全=楽」ではないことを改めて感じる。

16時27分、足柄駅に到着。疲労はかなりのものだったが、麓から眺める富士山が静かに迎えてくれた。

矢倉岳〜金時山縦走は、観光地的要素と本格的な体力消耗が同居するルートだ。低山であっても、距離と累積標高差が加われば内容は濃くなる。この縦走は、その事実を淡々と教えてくれる山行だった。
まとめ
この縦走を振り返ってまず思うのは、「低山」という言葉がいかに油断を誘うか、ということだ。矢倉岳から金時山へ。名前だけを並べれば穏やかな里山歩きの延長に見える。しかし実際には、距離26.4kmと1,700mを超える累積標高差が、確実に体力と集中力を削っていく。
前半は静かな山行だった。城址を巡り、滝を眺め、森の中を淡々と歩く。その余裕があるうちに見えた金時山の山容は、これから待つ現実を無言で突きつけてくる存在だった。
そして終盤。疲労が限界に近づいたところで始まる金時山直下の急登。初心者向けと言われる山が、これほど重く感じるのかと、脚の一本一本で理解させられる。それでも登り切った先には、すべてを肯定するような景色が広がっていた。
危険な岩場も、鎖場もない。ただ長く、確実に消耗する。その積み重ねこそが、この縦走の本質だと思う。足柄駅に降り立ったときの疲労感は、そのまま「歩き切った」という事実の重さだった。
矢倉岳〜金時山縦走は、派手さはない。だが、低山縦走の厳しさと奥深さを、静かに、確実に刻み込んでくる山行だった。





